親知らずの抜歯で最も起きて欲しくないトラブルが、下唇の麻痺。
下顎の親知らずは、顎が小さい現代人の場合は、普通に縦に生えてくることは少なく、斜めや横になって埋まっていることがほとんど。
親知らずが埋まっていると、下顎の中を走行している神経との距離が近い可能性もあります。
この下顎の中を通っている神経は文字通り下顎神経と呼ばれており、唇の感覚を司っているのです。
親知らずと下顎神経の距離が近いと、親知らずを抜歯した後の後遺症として、唇の麻痺や感覚異常を引き起こしてしまうことがあります。
この唇の麻痺というのは、そう簡単には起きないのですが、一度起きてしまうととても厄介であり、すごく不快な症状が続いてしまいます。
わかりやすく説明すると、虫歯治療の時の麻酔がずっと覚めないような、異常な感覚が続いてしまいます。
大抵の場合は3ヶ月から9ヶ月くらい様子を見ると治っていくのですが、それだけの長期間において唇の麻痺が続くのは、かなり苦痛であることは間違いありません。
あるデーターによると親知らずの抜歯による下唇の麻痺が生じてしまう可能性は1%以下。でも、麻痺になってしまった患者様の苦しみを考えると、麻痺が生じる可能性を0%にしないといけません。
僕自身の経験としては、今まで4000本以上の親知らずを抜歯しており、その中で麻痺が生じてしまった方は3名。
3名とも半年以内に麻痺は治りましたが、やはり治るまでは心配で心配で仕方ありませんでした。
そのため当院で、より神経麻痺のリスクを減らすために始めた親知らずの抜歯方法が、coronectomy《歯冠切断術》と呼ばれる術式。
上のイラストでわかって頂けるように、親知らずの頭の部分だけを切断して取り除き、根の部分はそのまま置いてくるという方法です。
日本では、歯根を残す=歯科医師の腕が未熟なゆえ抜歯を途中で断念した、と思われてしまいがちなこともあり、
まだまだマイナーな方法ですが、万が一の神経麻痺が0%に近づくのであれば、トライする価値はあると考えています。